幕末異聞―弐―
「すまぬ…小五郎。それでも…それでも俺は……」
――私怨を晴らさなくてはいけないんだ
後に続く言葉が自分を否定するものだと確信した桂は、吉田から目を逸らし、窓の外を見上げた。
「…お前にはお前の道がある。謝ることはない」
「……失礼する」
「稔麿!」
桂の呼び止める声に吉田は静止した。
「俺は、河原町御池の長州藩邸にいる。
また近いうちに話し合おう。日時と場所は、こちらから使いを出す」
吉田は顔を歪めたまま席を立ち、桂の顔を見ることなく、部屋を出て行った。
「……幾松」
「…はい」
「お前の三味線を…聴かせてくれ」
「はい」
二人になった部屋には、幾松の三味線の音が空しく響いた。