幕末異聞―弐―
「はぁ〜。物騒じゃのー!!」
「…」
「京都では女子も刀を差しちょるがか?!」
「…」
「しかも袴まで履いて!!はぁ〜」
「黙れモジャ頭」
昼の巡回当番を終え、茶屋で一息ついていた楓は刀を抜く一歩手前の状況だった。
先ほどからこの酷いくせ毛の“モジャ頭”は、頭からつま先までジロジロ見た上、自分の格好に対し、勝手に同情し始めたのだ。
これでは息抜きどころか団子を食べることもままならない。
「あっはははは!こりゃすまんなー!わしに気にせず食べるぜよ!!」
「食えるかーッ!!」
楓は“モジャ頭”の無礼に我慢しきれなくなり、持っていたみたらし団子を顔面目掛けて投げつける。
当然、周りにいた店員や客はその光景を唖然として見ていた。
「ぷはっ!!」
団子は見事に顔面のど真ん中を捕らえた。
「わはははは!団子を投げつけられたのは初めてぜよ!あははは!!」
みたらしでベタベタになった顔を手で拭きながら、何故か上機嫌な“モジャ頭”。
楓はその態度がまた気に食わなかった。
「おんし、名は?」
「団子投げつけられて喜んでる変態に名乗る名はあらへん!!」
「なはは!!いや〜、まさか団子を投げるとは思っとらんち、楽しくなってしまっての!ではわしから名乗ろう!
わしゃ坂本龍馬じゃ!!」
「別に教えろとは言っとらん」
「なかなか気の強い女子じゃな!わしの好みぜよ!うははは!」
この坂本という男は、人をおちょくって楽しんでいる辺りがどことなく沖田に似ていた。だが、沖田と決定的に違うところは、坂本には悪気がなく、あくまで天然であるということだ。
これは相当性質(たち)が悪い。
そして、最近、朝も夜も働き詰めで疲れている楓にとっては最も会いたくない人種であった。