幕末異聞―弐―
「…幽霊?」
「……は?!」
「で…出たーーーッ!!!」
「え…ちょ…」
初めて聞いた沖田の叫びにも似た声に思わず振り返る楓。
そこには、見たこともない沖田の動転する姿があった。逃げ腰の格好で顔を右手で覆い、左手は何かを追い払うように大きく左右に振っている。
「悪霊だー!!」
「お…おい!そんな大声出すと…」
楓は焦って沖田に近寄るが、近づいたぶんだけ沖田は後退さっていく。
「来ないで下さいぃぃ!!」
そう言われて楓は、はっと気が付いた。
(うちは今赤い着物を着て、白粉を塗ってる。しかも着物からは足が見えていない…)
楓はまじまじと自分を上から下まで見てみた。
「…はっ。こりゃ確かに怖いわな」
月の光に照らされた自分の顔は恐らく幽霊と間違えられてもおかしくない。
楓は近づくと大声を出す沖田をどう止めようか考えた。
目の前の沖田は、恐怖のあまり幽霊から目が離せなくなっている。
(…しゃーない)
楓は覚悟を決め、大きく足を前後に開く。
「…うわっ!!」
同時に沖田は息を止めて目を強く閉じる。
「―――!!」