幕末異聞―弐―
「ったく!お前らは俺を過労死させる気か?!」
舌打ちをしながらもまだ熱の残っている行灯に再度火を入れた。
「あれ?もしかしてもう寝る体勢に入ってました?」
沖田は足で器用に障子を閉めると、光に照らされた室内の様子から土方が就寝直前であったことに気づく。
「あったりめーだろ!!俺の貴重な睡眠時間を削りやがって!」
「そりゃこの坊ちゃんが悪いんや。まさか二十を越えても幽霊が怖いとは…。ほんまは女なんちゃうの?」
楓は皮肉交じりの笑顔で沖田の顔を覗き込む。
「総司、お前まだ幽霊なんて「だって卑怯じゃないですか!!」
沖田は顔だけでなく、耳も赤に染め上げて二人を睨みつける。
「元はと言えば、土方さんのこの任務に対する説明不足が原因じゃないですか!!」
「俺は山崎君にお前の面倒は引き継いだはずだ。
文句なら山崎君か齋藤君に言ってくれ」
(山崎さんも一さんも知ってたんですね〜!!だから太夫の名前まで知っていたのか!)
沖田は真面目一徹だと思っていた二人にからかわれた事に衝撃を受けた。
「か…楓だって!!一回、目合ったじゃないですか?!なんであの後何も言ってくれなかったんですか!!」
「あんた口軽いから」
楓はやはり以前、舞を舞っている時に沖田と目が合ったことを覚えていた。
しかし、事実を話す気は微塵もなく、知らん顔で日々を過ごして来たのだ。
「…二人とも。あんまりじゃないですか?」
完全に撃沈して声も段々弱々しくなってきた沖田に、楓と土方が日頃の恨みを込めて更なる追い討ちをかける。
「いや〜、でもウケたなぁ。
“出たーー!”ってそんなベタな驚き方する奴なかなかおらへんで?!」
「あそこまで慌ててる総司見たのは寝しょんべんしたとき以来だな〜!」
普段仲の悪い二人も、人を攻撃するときだけは徹底して話を合わせてくる。沖田は正に彼らの的になったのだ。
「言わせておけば調子に乗って…」
――チャキッ
「突きがいいですか?袈裟がいいですか?」
ニコニコ笑いながら物騒なことを言い出す沖田。
手には既に鞘から抜かれ、閃光を放つ刀が持たれている。