幕末異聞―弐―
縁側に沿って続く長い廊下の突き当たりに部屋がある。
用のない者は滅多に訪れないような立地条件。そして、ここに人が尋ねてこないもう一つの理由…
「斉藤君。今度はどんな人生相談者を連れてきたというんだね?」
障子を締めたままの窓と対面した机に肘を付き、煙管をふかす男がいる。
「人生相談者?今日は放火犯と思しき者を二人捕縛して今、蔵に監禁しています」
男と向き合って座る齋藤と呼ばれた男。
新撰組屈指の剣豪、三番隊組長・齋藤一は男の言葉の意味するところがいまいち理解できなかったが、今日巡回での出来事を簡潔に報告した。
「ほぉ。んで、そいつらは何か吐いたのか?」
眉間に深く皺を刻んだ顔は一見怒っているように見える。実際一日の大半は怒っているのだが…。
「はい、最初は大分渋っていましたが、土方歳三の名前を出した途端に喋り出しました」
「…いつもそんな事に俺の名を使っているのか君は?」
「それが一番手っ取り早いのですよ」
齋藤は平然と土方を言い伏せる。
そう、この部屋に隊士が寄り付かないもう一つの理由。それはここが“鬼の副長”と呼ばれる新撰組副長・土方歳三の部屋だからだ。
「むぅ…。まあいい。それで?そいつらは何と?」
納得いかないといった顔をしながら話を先に進める土方。
「はい。その放火犯二人、“自分たちは長州藩士”だと」
ピクっと土方は立派な眉を片方だけ上げ、煙管を咥える。
「その他は?」
「それが、特に重要人物というわけではないようで、それ以上は何も出てきませんでした」
「ふぅ…。単独でやった可能性もあるし、誰かに指示されてやった可能性もあるってことか…」
土方は口から煙を吐き出す。