幕末異聞―弐―
「ん?刀…?」
(部屋に入ってくるまでは刀を持っていなかったはず)
どこから湧いて出てきたのかと首を傾げる土方は、自分の部屋を見回してみる。
すると、掛け軸の下に置いてあるはずの愛刀、和泉守兼定がなくなっていた。
沖田の手にはないはずの刀。
置いてあるはずなのに消えた愛刀。
「それ俺の刀じゃねーかっ!!」
土方は丹念に手入れしたばかりの愛刀を構える沖田に慌てふためく。
「ふっ。斬れるもんなら斬ってみい。あんたなんかこの懐刀で十分や!」
沖田の挑発に乗った楓は、もしものためにと忍ばせておいた黒塗りの小刀を取り出し、応戦の意思を見せた。
「赤城馬鹿野朗!!挑発すんじゃねーよ!
俺の刀は手入れしたばっかなんだよ!!ついでに畳も張り替えたばっかなんだよ!!」
「黙れタラシ」
「黙れろくでなし」
殺気の篭ったドス黒い声で口々に土方を罵倒する楓と沖田。
夜だからと気を利かせて小声で喋っていた土方も、流石にこの発言は許容範囲外だった。
「オメーら…いい加減にしろーーーッ!!!」
――バシィィッ!!
「「だっ!」」
硬いもの同士がぶつかり合う音と共に、声にならない苦痛に歪んだ声が聞こえた。
等々堪忍袋の緒が切れた土方が、沖田が刀を抜いた際、足元に転がった赤茶色の鞘を手に取り、二人の向う脛目掛けて思いっきり振り切ったのだ。