幕末異聞―弐―
「いだだだだっ…おま…馬鹿か!!
何で鞘なんか転がしとくんや?!こいつには何だって凶器になり得る事くらい知っとるやろ?!!」
痛さのあまり、畳に頭を擦りつけて声を張り上げる楓。もう外見の女らしさも全く意味を成さなくなっている。
「あいたたたっ!!いや…まさか鞘で…弁慶なんて思ってもいなくて……」
沖田も打たれて赤くなった脛を擦りながら畳に突っ伏して痛さのあまり小刻みに震え笑いをしていた。
土方の手により、抜き身だった二人の刀は没収された。
「ったく!!こんな所で斬り合いされたら畳が汚れるだろうが!」
自分の愛刀と楓の懐刀を鞘に戻しながら土方は痛がる二人を見下す。
「なんやそのヘボい理由は…」
「畳なんかのせいで私の弁慶が…」
ようやく上体を起こせるまでに回復した二人は、お互いを睨みながら着座する。
二人のゆっくとした動作が止まるのを待っていた土方は、やっと普通に会話が出来ることに内心少し感動していた。