幕末異聞―弐―
「お!そうだ。山南さん!」
土方くんに呼ばれて自己嫌悪の影を背負ったまま現実へ帰る。
高く昇った太陽が私の影の色を更に濃くしていく。
「赤城が持ってきた情報だ」
渡されたのは小さく折り畳まれた一枚の半紙。一回ずつ丁寧に折り目を開いていく。
「赤城君は、大丈夫なのか?」
半紙に目を通しながら、危険な任に就いている赤城君の安否が気になった。
「心配には及ばねぇよ。意外と器用な女だよあいつは」
「…そのようだね。たった一ヶ月程度でここまでの情報を集めてくるとは、優秀の一言に尽きるな」
半紙に書いてある内容を見て驚いた。要人の出身、仕事、生活、全てが事細かに記されていたのだ。
「六月四日早朝…枡屋襲撃?」
文書の最後はこの一言で締め括られていた。
「ああ。六月四日の朝に重要な客人が来ると枡屋は漏らしていたらしい。
そろそろとっ捕まえて長州の事について吐いてもらおうと思っていた時期だ。ちょうどいいだろう」
「酒の席での情報に、そこまで信憑性があるとは思えないんだが…?」
酒に酔った人間は何を言い出すかわかったものではない。酒に任せて好き勝手にホラを吹く人間は山ほど見てきた。
この慎重に事を進めなければいけない場面で、土方君らしからぬ安易な考えが気になった。