幕末異聞―弐―
「俺は今回の件は赤城に一任してんだよ」
「?!」
彼の自信ありといった笑顔に私は思わず言葉を失った。
赤城君を毛嫌いしていた男の言葉とは思えない一言。
彼の中で赤城君に対する意識が大きく変わったのだろうか?
「驚いたな。君の口からそんな言葉が出るなんて思ってもいなかったよ」
「俺だって思ってなかったよ。だが、正直あいつは認めざるおえねぇ。認めたくねーけどな!」
土方君は何度も何度も口を尖らせたまま頷いている。その表情は照れているようだった。
「貴方の中で大切な仲間になったって事ですか?」
「なッ!!ちげーよ!」
ほら図星。
(解りやすさも相変わらず)
「と…とにかくだ!!その文書通り決行する予定だ。近藤さんには俺から伝えておく。大捕り物になるかもしれねーから山南さんもそのつもりでいてくれ!」
顔を背けたまま用件だけ簡潔に言うと、彼は自室に戻っていった。
「大捕り物…か…」
私は散々稽古で酷使してきた肉厚の両手の平を睨んだ。
「こんな手に…何ができるというのだ?」
何千回も何万回も竹刀を握ってきた手に聞いてみるが、返事など返って来るはずがない。
部屋に置いてある愛刀を空に描きながら、どうか握らないで済むようにと願う自分の滑稽な姿を自嘲するように笑った。