幕末異聞―弐―
「これは私の見解ですが、彼らは単独で行動したように思います。関与した人物の名前は一切出てきませんでした」
齋藤は珍しく自分の意見を土方に進言した。
「聞き出し方が足りないんじゃないのか?」
「…もう楽にしてやった方がいいのではないかと思いますが」
「ふん。なるほど。では、その者たちをキリのいいところで楽にしてやれ。
それと、山崎君を呼んでくれ」
「御意」
土方の指示を承った齋藤は静かに部屋から退室した。
「ついに動き出すか…」
「お呼びでしょうか副長」
襖の向こうからは齋藤が出て行ってから幾分も経たないうちに監察方の山崎蒸が来ていた。
「長州藩に何か動きはあったか?」
「…ガセネタの可能性が高いので副長の耳に入れるのはやめておいたのですが、この京都に倒幕過激派の長州藩士、吉田稔麿が頻繁に出入りしているとの噂が…」
襖の向こうにいる土方に自分の得た情報を伝える。
「…そうか。今度からは信憑性の低い情報でも逐一報告してくれ。どうも倒幕派の行動が怪しくなってきた気がする」
「わかりました。では」
襖の向こうから人の気配が消えたことを確認し、土方は煙管を置いて文机の紙の山と睨み合う。
「どうしたもんかね…」
と呟いていつものように書類整理の作業に取り掛かった。