幕末異聞―弐―


四条大宮にある老舗和菓子店の店主は驚いていた。

和菓子店のお客というのは女性や童がほとんどで、男は例え甘味が好きでも恥ずかしがって入って来ないものだ。

しかし今日の客は少し違う。
着流しを着ているせいか、一瞬女と見間違えてしまうくらい中性的な顔はしているが、紛れもなく男なのだ。


「八橋を五つと豆大福を三つ。あと練きりを一袋下さい!」

店前に並べてある和菓子を楽しそうに選んでいた男は笑顔で店主に注文した。


「お…おおきに」


店主は恥じらいもなく和菓子を買っていく男を物珍しそうに見る。

「くすくす。とんだ珍客でしょう?」

「へ?!!」

店主は肩を跳ね上がらせた。今正にそう考えていたからだ。

「あはは!女性でも男性でも甘味が好きならみんな正直に買いに来ればいいのに。我慢は体によくないですよね?ご主人」


「お…お侍様はきっと甘味なんて物は食べないんやないですか?」

店主は動揺する手で一つ一つ注文されたものを紙に包んでいく。

「そうですかね〜?武士の中にも甘味が好きな人って必ずいると思いますけどね〜」

そう言う男の腰を横目でさり気なく見る店主。男の腰には刀は無い。どうやら武士ではなさそうだ。

「まぁ、私ら庶民にはわからん感覚や。はい!どうぞ」

「あ!ありがとうございます」

男は店主に銭を渡し、和菓子の入っている和紙を三つ受け取った。


「じゃあまた来ますね〜」

「毎度おおきに〜!!」


こうして、珍客は帰っていった。




この客が京都で名を轟かせている新撰組随一の剣客、沖田総司だと店主が知るのはまだ先のことである。



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