素直になれなくて
「夏美ちゃん!」
電車から降りると、良平くんが探しに来てくれた。
「良かった、同じ電車に乗れてたんだね」
「うん…!」
良平くんが現れたと同時に、今まで繋がれていた手が離れた。
冷たい空気が、手に触れる。
「遼平ー!お前、どこにいたんだよ」
「乗り遅れたかと思ったぜ」
「…俺やっぱ、この時間帯の電車は無理だわ」
何もなかったように、遼平くんは横を通り過ぎていく。
「あ…」
言わなきゃー…
遼平くんがあの時、手を引っ張ってくれなきゃ私は電車に乗り遅れるとこだった。
"ありがとう"って、伝えなきゃー…
「りょ…」
「胸くそ悪い。俺、明日からマジで時間変えるわ」
「はー?遅刻ギリギリで来んの?」
「この時間の電車で、会いたくない奴でもいるわけ?」
声を掛けようと思ったが、言葉が止まった。
「あぁ…いるよ。だから、時間変える」
「誰だよ!それ」
「元カノか?」
「ちがう。誰だっていいだろ。行くぞ」
どんどん遠ざかって行く、遼平くん。
お礼言わなきゃいけないのに…
足が動かない。