素直になれなくて










「夏美ちゃん、おはよ」

「おはよう。稀田くん」

毎朝、駅のホームで稀田くんと挨拶を交わす。

同じ駅で、同じ時間の電車で、同じ学校なだけなのにー・・女子からの視線が痛いような気がするのは、なぜだろう?

「今日の授業、絶対あたる」

「あ、今日13日だもんね。稀田くんの出席番号」

「わかんなかったら、教えてね」

「えー!稀田くん、頭いいじゃん」

「そんなことないけど・・・・ねぇ、また苗字に戻ってる」

「あ・・・ごめ・・」

稀田くんの下の名前は、良平。

「皆が稀田くんって呼んでるから、そっちの方がいいかなって」

本当は、違う。

「別に、俺はかまわないよ」

「いやー・・・視線が怖いし?」

"りょうへいくん"って呼ぶのに、自分の中で抵抗があるような気がするから。


「最近は、他校の男に絡まれたりしてない?」

ドキ。

「あ・・うん。あれから、1ヵ月も経つし?大丈夫だよ」

「そっか。よかった」

あの日から、駅で遼平くんを見かけることがなくなった。


「稀田くんの、おかげだよ」


"会いたくない奴がいる"

本当に、私のことだったんだって・・・日に日に、思ってしまう。


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