素直になれなくて
*6 ありがとう
「夏美ちゃん、一緒に帰ろうよ」
「…稀田くん」
あの日から、一週間が経った。
朝も帰りも、駅で遼平くんと会うことはなくなった。
「たまには、いいでしょ?嫌なら、少し後ろ歩くからさ」
「あはは!大丈夫だよ。一緒に帰ろう」
「ありがとう」
稀田くんは、私からあんなことを言ってしまったのに、優しくしてくれる。
「そういえば、最近は他校生に絡まれたりしてない?」
ドキン。
遼平くんたちの集団のことだ。
「う…うん。大丈夫」
そういえば、あの人達も見なくなったな…
「なら、良かった。あの時、ちょっと気になったことがあったんだよね」
「気になったこと?」
「俺と同じ、"りょうへい"って男が居ただろ?」
ドクン。
「っ…そうだっけ?」
「中学が同じだったって言ってたよね?」
ドキ!
「あ…そういえば…」
稀田くんに、言ったっけー…
「ただの同級生ってわけじゃないんでしょ?」
「え!?」
夏美の反応を見てわかったのか、稀田は一人で頷いた。
「元カレとか?」
「ちっ…違うよ!」
「じゃあ、どんな存在だったの?"りょうへい"って男と会ってからの夏美ちゃんの様子、ちょっと落ち込んでたから気になる」
「落ち込んでなんか…」
稀田の鋭い観察力に驚きながらも、動揺を隠せない。
「俺に話してよ?一人で悩んでると、悪いことばかり考えちゃうからさ」
ぽんぽんっと頭を撫で、顔を覗き込まれた。
「ね?」
優しい、稀田くんの笑顔。
「…うん」
何か、少し…
昔の遼平くんと、重なって見えた。