素直になれなくて
「私の思い違いかもしれないけど!てか、過去を引きずりすぎだよね…っ」
流れ落ちる涙を振り払うように、稀田に笑ってみせた。
「…ねぇ、夏美ちゃん。過去を忘れる方法って知ってる?」
「え?…きゃ!」
稀田の大きな手に、ぐいっと手首を掴まれ…
「過去よりも、もっともっと幸せな思い出を上書きするんだ」
抱き締められた。
「き…稀田くん…?」
いきなりの出来事に、頭が真っ白になって動けない。
「ねぇ。夏美ちゃん、俺と付き合わない?」
つ…
「え!?」
付き合う!!?
「幸せな思い出もそうだけど、恋愛は新しい恋で忘れろって言うじゃん?」
抱き締められたまま、耳元で囁かれる。
「え…え?」
耳まで真っ赤になるが、頭の中がまだ理解できていない。
「俺が、りょうへいって男を忘れさせてあげるよ」