人こそ芸術 part1
僕の患者
林田真矢は検査の結果、拘束型心筋症だと判明した。
「目黒先生、お疲れ様でした」
僕のオフィスにノックをして入って来たのは、小山るうだった。
「お疲れ様、小山さん」
僕は微笑む。
小山るうの手には薄ピンクのトレーを持っていた。
「今日は暑いですから、アイス珈琲にしてみました」
僕のデスクに汗のかいた細長いガラス製のグラスを置いた。
その隣に白い皿に乗ったチョコケーキも置いた。
「このチョコケーキ、とっても珈琲に合うんです」
小山るうの笑顔を見て自然と僕も笑顔になる。
「チョコケーキ、ビターなんで安心してくださいね」
含み笑いで言う。
「栞が言ったのか?」
一人になったオフィスでチョコケーキを食べながら言う。
鼻から抜けるチョコの香り。
やっぱりチョコはビターにかぎる。
珈琲にも手を伸ばす。
冷たい珈琲が体を一直線に潤すのがわかった。