人こそ芸術 part1
僕のオフィス
今頃、小山るうは事の重大さに気が付いているだろうか。
珍しく栞が持って来てくれた珈琲を啜りながら思う。
栞が淹れる珈琲は甘くないブラック珈琲。
ちゃんと僕の好みを知っている。
ノックの音が静かな部屋に響く。
「どうぞ」
ゆっくりと扉が開く。
「失礼します」
入ってきたのは櫻井舞だった。
「おはよう、櫻井さん」
「おはようございます、目黒先生」
今日の櫻井舞はどこか変だ。
メイクもいつもより濃いし、白衣の丈も少し短い。
そして笑顔がぎこちなく、少しソワソワしていて落ち着きが無い。
「何かご用ですか?」
僕の言葉に櫻井舞の目線はタイルカーペットの床をさまよってしまった。
「どうかしました?」
「あの・・・」
じわじわと目線が僕の体を這い上がってくる。
「あの・・・」
漸く目が合う。
「私、目黒先生の事が好きなんです。お付き合いしていただけませんか?」
櫻井舞がオフィスに入ってきた時からそんな気はしていたが、予想通りの言葉を言われると素で驚いてしまう。