人こそ芸術 part1
僕の秘密
「失礼します」
院長に呼び出されることは少なくない。
その内容は大概、栞の事。
「内田院長、お呼びでしょうか?」
大きなデスクを挟んだ向こうに座る内田院長。
彼女は栞の母親。
だから栞と付き合っている事は秘密。
「小山るうさんが来ていないの。目黒先生、何か知りません?」
「僕は知りません」
「そう・・・困ったわね。あ、もう帰って結構です」
困った様には見えない。
内田院長はいつも事務的で冷たい人。
軽く頭を下げて扉に向かう。
僕が扉に手を掛けると、後ろから内田院長に呼び止められた。
「ついでだから聞くけど、栞とは付き合ってるの?」
おそらくこれが本題なのだろう。
僕は振り返らずに答えた。
「何かの間違いじゃありませんか?」
僕は扉を開け、院長室を出た。
栞と付き合っている事をいつまで黙っていればいいのか、自分でも判らない。
ただ今は言ってはいけない。