人こそ芸術 part1
熱帯魚たちに餌を与える為に立ち上がる。
熱帯魚用の餌を右手でつまみ、蓋を開けた水槽の中に指を擦りながら落とす。
「おはよー、修」
ノック無しにいきなり入って来たのは僕の恋人で看護婦の内田栞(ウチダシオリ)だった。
「修なんて呼んで誰かに聞かれたらどうすんだよ」
「大丈夫だよ。誰も居なかったから」
栞はピースをして見せる。
僕らの関係は秘密なのだ。
ノックをしないのは栞の癖なので、僕からは特に何も言わない。
「私のプラティちゃんは元気?」
“プラティちゃん”とは熱帯魚の名前のこと。
他にも、モーリー、スノーホワイト、グッピー、ネオンテトラ、プラチナエンゼル、レオパードなど種類は豊富だ。
「昨日と同じで元気だよ」
僕は熱帯魚の餌を手渡す。
栞は可愛く微笑み餌を受け取る。
「ご飯だよ~」
一匹一匹に話しかけるように餌を水槽の中に撒く。
栞は背が小さいが“可愛い”よりも“綺麗”で髪はいつもポニーテールにしている。
とてもサバサバした性格だが、目上の者に対して礼儀を忘れない。
そういう女性。