人こそ芸術 part1

「ホントかっ!?」

栞の肩を掴んで目を丸くする。

「本当だよ」

栞は赤くなった顔で笑顔を見せ、肩に掛けている小さなバッグから母子手帳を取り出し僕に差し出した。

僕は無言でそれを受け取った。

そして母子手帳の表紙に描かれている赤ちゃんを見つめる。

僕は父親になるのだ。

驚きが喜びに変わる。

だがその喜びは、不安や戸惑いを連れて来た。

殺人鬼が命を守る親になれるのだろうか・・・。

「三週間だって」

栞の嬉しそうな声に顔を上げる。

栞の大きな瞳は少し潤んでいた。

僕はそんな栞を両手で強く抱き締める。

栞のお腹にいる赤ちゃんの父親はこの僕だ。

代わりなんて居ない。

僕はこの子の父親なんだ。

「愛してる」

耳元で囁き、栞と向き合う。

「僕と結婚してください」

少し緊張して笑顔がぎこちない。

「もちろん」

その言葉に緊張の糸が切れる。

栞はついに、大きな瞳から涙を流れた。

僕はもう一度栞を強く抱き締める。

そしてどちらからともなく、唇を重ねた。

栞の全て、僕等の間に宿った命を包み込む様な・・・長いキス。

幸せは涙の味がした。







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