人こそ芸術 part1
「僕は櫻井さんと付き合うことは出来ません」
すみませんと言って頭を下げた。
「理由・・・聞いてもいいですか?」
僕は頭を上げたが、櫻井舞の顔を直視出来ず白いコンクリートの地面を見た。
「どこか悪い所があるなら教えてほしいんです」
僕は櫻井舞に真実を伝える義務がある。
そう思い、櫻井舞の目を真っ直ぐ見つめた。
「実は、今付き合っている彼女と結婚するんです。だから・・・」
「誰ですか?」
低い声で櫻井舞が言う。
僕は隠す必要は無いと思った。
「栞です」
僕と櫻井舞の間を強い風が駆け抜けた。
櫻井舞の瞳が潤み始める。
「栞先輩とお幸せに」
長い沈黙のあと、震える声で櫻井舞は深々と頭を下げた。
そして僕に背を向け、扉まで歩き出した。
僕は櫻井舞の背中に向かって叫んだ。
「櫻井さんを想っている人は近くに居ますから!」
これは嘘ではない。
櫻井舞に好意を抱いている人がすぐ近くに居るのだ。
櫻井舞は一度僕に笑顔を見せ、扉の向こうに消えていった。
その笑顔は見とれてしまうほど美しかった。