人こそ芸術 part1

櫻井舞を女としてではなく、コレクションとして僕のモノにしたかった。

櫻井舞は美しいのだ。

コレクションにする価値は充分ある。

でも僕はそうしなかった。

櫻井舞は美しいからこそ、このまま生きて今以上に美しくなって幸せになってほしい。

僕の手で大川大輔の恋が終わってしまうなんて、そんなことしたくない。

それもコレクションにしない理由のひとつだ。

日が落ちて、少し冷たい風が吹く。

手すりの向こう側は僕の心によく似たブルーだった。

悪い事をした訳ではないが、女性を泣かせてしまうのは気分が良くない。

白衣のポケットに入った携帯を取り出して、栞に電話をする。

「やっぱり櫻井さん、泣いちゃった・・・」

「恋愛したらフられる事もあるんだから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

栞が小さく笑ったのが聞こえた。

< 81 / 97 >

この作品をシェア

pagetop