人こそ芸術 part1
内田院長は僕らが入って来たのを見て、顔色ひとつ変えず、いつもの冷たい顔をしていた。
「今日は大切なお話があって来ました」
僕が言い、二人で軽く頭を下げた。
内田院長は僕を睨む様に見つめる。
栞の両親は離婚しているので、挨拶をするのは母親である内田院長だけだ。
「お掛けになって」
優しさの欠片も無い冷たい口調。
指示に従い、部屋の隅に置かれている革のソファーに栞と並んで座る。
膝の高さ程の硝子のテーブルを挟んだ向かいに内田院長が座った。
3人の間に重たい空気が流れる。
内田院長は今も僕を睨む様に見ている。
僕は目を逸らさない。
「栞さんとお付き合いをさせてもらっています」
内田院長は「本当なの?」と言わんばかりに栞を見た。
でもその顔は決して驚いてなどいない。
「三年前からです」
栞は短く答えた。
「そんな分かり切った事を報告に来たんですか?」
「いえ、違います」
僕の即答に内田院長の美しく整った眉が少し寄った。