人こそ芸術 part1
「栞さんのお腹の中に赤ちゃんがいます。勿論、父親は僕です」
内田院長は綺麗な右手で口元を押さえた。
「どれくらい・・・なの?」
さすがに動揺したようで、ゆっくりとした口調で栞に聞く。
「もう4週間になりました」
栞は小学生の様なペッタンコのお腹をさすりながら言った。
「・・・そう」
内田院長は力無く呟いた。
「栞さんと結婚したいんです」
内田院長は先ほどの動揺が嘘の様に、僕を冷たい目で睨んだ。
僕は絶対に目を逸らさない。
逸らしたら僕の負けだ。
「責任を取る・・・という事ですか?」
「お付き合いを始めた頃から結婚は考えていました」
「結婚前提・・・という事ですね?」
「はい」
膝に置く手は熱を持ち、汗でヌメヌメしていた。
「栞さんを僕にください」
席を立ち、額を床にベッタリと付ける土下座をした。
長い沈黙が僕の鼓動を加速させる。
「頭を上げて下さい」
この事務的な冷たい口調には慣れた。