人こそ芸術 part1
内田院長は深呼吸をして、
「栞を宜しく頼みます」
僕に頭を下げ、潤んだ瞳で優しく微笑んだ。
そして栞の微笑みは母親譲りなのだと初めて知った。
「ありがとうございます!」
僕は再び額を床に押し付けた。
「お母さん・・・」
栞の声に顔を上げると涙を流しながら二人が抱き合っていた。
その光景を見て気が付くと僕の頬にも涙が伝っていた。
「絶対に栞さんを幸せにします」
これで病院でも栞と堂々と一緒に居られる。
仕事が疎かになる、とかで病院内での恋愛は娘の栞だけ禁じられていた。
でもこれからはコソコソしなくても済むのだ。
「今から二人で指輪でも見てきなさい」
内田院長に微笑んでそう言われたのは、僕らが院長室を出る時だった。
窓の外は夕闇が広がっていた。
「そうします」
僕はそう言って微笑み返した。
「じゃぁ行ってくるね、お母さん」
僕らは駐車場に向かった。
「行くとは言ったものの・・・何処へ行こうか?」
車のハンドルを握り、助手席に座る栞を見る。