ヒメゴト
「会長は彼女いるじゃない。」
「は?…何それ。」
「みんな言ってましたよ。りえこ先輩と付き合ってるって。」
わたしが立ち止まってそう言うと、後ろから会長のため息が聞こえた。
「そんな噂…信じたわけ?」
「へ?」
「言っておくけど、俺は被害者だからな。あの人がやたら纏わり付いてきただけだから。」
なぁんだ…そう、だったのか。でもいくらなんでも被害者はひどいと思うんだけど。
てか…なんでわたし噂と聞いてちょっと安心したんだろう。
気がつくともう家の前だった。
…結局送ってもらっちゃった。
「あとは大丈夫だな。ちゃんと寝とけよ?」
会長はそう言って、わたしに鞄を持たせた。
「お大事に。」
そう言って、会長は今来た道を戻り始めた。
「か、会長!」
ここはいくらなんでも言わなきゃいけないと思った。
「ありがと。」
会長は、振り返りもせずにまた歩き出した。
なんだか、会長のことよくわからなくなってきた。
本当は…いいやつなのかも。いや、でもそれはないか。
わたしは会長の後ろ姿を横目に、家の中に入った。