猫になって君にキスをして
「あ」
真治が突然声を上げた。
「オレ、そういえばフラれたんだった」
「にゃ…」
(思い出したのか)
「ちくしょー」
再び泣きそうになる真治の膝をトントンと叩いてやった。
「にゃにゃーにゃ」
(オレもだぞ、真治)
「なんだ、猫」
「にゃーにゃ」
(オレもフラれたんだ)
肉球で鼻先を差す。
「お前もか」
「にゃ」
コクリと首を折る。
「そうか。どんな猫だった?」
「にゃ…」
(猫じゃねーけどな)
「寂しいか?」
「にゃ…」
(だんだんな)
「オレも寂しいわ」
「にゃー」
(ま、元気だせ)
「なんでかなー。待ち合わせ場所に行った途端にフラれたんだよ」
「にゃ」
(即行か)
「“そんな人とは無理”ってよ。背中から言いやがってよ」
「…にゃ」
(…お前)
「なんでかな」
「にゃ…にゃ」
(そのTシャツのせいじゃねーのか?)
「愛は勝つと思ってたのによぉ」
「にゃにゃー…」
(思ってるだけにしとけば良かったんだ、きっと)
「はぁ」
オレはジョッキをトンと叩いた。
「にゃにゃ!」(まあ、飲め!)
「…そうだな。ま、いっか」
「にゃ!」
首を縦に振ってうなずいた。