猫になって君にキスをして
「にゃー」
(待っててやるから、杖代わりにはしないでくれよ)
オレは登りの階段の前まで行き、婆さんを待った。
オレが一段先を登る。
婆さんがその後に続く。
その繰り返しで、3、4分かかってやっとホームへたどり着いた。
「お前は賢い猫じゃのぅ」
ハアハアと息を切らしながら、婆さんがオレの頭を撫でた。
少しビビッたが、杖にされる事はなかった。
黄色い線の内側で、腰の曲がった婆さんと並び、一緒に電車を待った。
人が前を横切っては、オレと婆さんを交互に見ていく。
線路から吹き上げる風が、すーっとホームをなぞる。
鼻先までやってきたそれは、オレの長い髭と、婆さんの体を揺らした。
「にゃ……」
(もうすぐ夕方か……)
案内板の時計を見上げると、まもなく4時になるところだった。