猫になって君にキスをして
「はあああ」
婆さんがゆっくりと息を吐き出した。
膝に乗せた紙袋が気になったオレは、ちょんとそれを叩き、婆さんを見上げた。
「にゃにゃ」
(どこに行くんだ、婆さん)
電車の騒音で、オレの声などまるで耳に届いていない婆さんは、窓に流れる景色をじっと見守っている。
「にゃにゃにゃっ」
婆さんの腕に、3回ほど猫パンチした。
「なんだ猫」
ようやく気づいた婆さんがオレを見る。
オレはもう一度、紙袋をちょんちょんと叩いた。
「にゃにゃ」
「食い物は入ってないぞ」
「にゃ」
(さっき入ったから分かるよ)
「猫、どこに行くんだ?」
「にゃにゃ」
(それより婆さんはどこに行くんだ?)