猫になって君にキスをして

「婆ちゃん、これでも結構忙しいんだ」


オレの頭を撫ではじめた婆さんは、ニカリと笑った。

窓から差し込む夕方の光に照らされた金歯が輝いている。

まさに黄金だ。


「にゃにゃ」
(眩しいぞ、婆さん)


「爺さんにはタバコをあげに行かんとならんし。
嫁は煮物ヘタくそだからな、やっぱり煮物は婆ちゃんのが美味いって孫が言うんじゃ」


「にゃ」
(猫アレルギーの孫か)


「最近じゃ誰も爺さんの墓に行かなくなっちまってなぁ」


「にゃ…」


そうか。


生きてる爺さんに会いに行くんじゃなくて、死んだ爺さんの墓参りに行くのか、婆さんは。


紙袋の中に線香が入っていたのは……、そのためか。

タバコは、墓前に供えるためのものだろう。

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