猫になって君にキスをして
『まもなくー、轟(トドロキ)町ー、轟町ー…』
車掌のよく聞き取れない眠い声が流れる。
「どれ、婆ちゃんここで降りるんじゃ。お前はどこだ?」
「にゃにゃ」(まだ先だ)
「気ぃつけて行けよ」
「にゃ」
婆さんが、もう一度オレの頭を撫でた。
夕日に反射した金歯が、ピカリと光る。
……眩しい。
しかしなんだろう、別の眩しさだ。
光輝く金歯には、婆さんの生きている証が含まれている気がした。
「んじゃ、またな猫」
「にゃにゃ」(婆さんも気をつけろよ)
よっこらせ……と、立ち上がった婆さんが、腰を曲げ、扉へ向かう。
シートから飛び降りたオレは、そこまで一緒に歩いた。
婆さんが先にホームへ立ち、引きずられる紙袋がズズズっと後に続く。
「にゃにゃ!」(またな!)
閉まりかけた扉の間から、婆さんのケツに呼びかけた。
「たっしゃでな、猫」
後ろ手にひらひらと、婆さんは手を振った。