猫になって君にキスをして
あ、やべ。
クツ忘れた。
って、いらねーか。
猫だもんな、オレ。
両手両足からじかに伝わるアスファルトの感触に少し戸惑うも、
数分後には慣れた。
オレの環境適応能力は大したものだ。
道路の隅で左、右、どっちへ行こうか迷っていると、
佐々木さん家のペコ……飼い猫が電柱の影からこっちをうかがっているのが見えた。
「にゃ……」
見てる。
ちょー見てる。
しかも背中の毛が若干立ってる。
ケンカなんてまっぴらだ。
戦い方など全く知らないのだ、猫の。
あわてたオレは、とりあえず左へ折れた。
風が吹く。
うすく濡れた鼻に触れる初秋の風は、ひんやりする。
なんかくすぐったいと思ったら、
長く伸びたヒゲが風に合わせて揺れているせいだった。