猫になって君にキスをして
『まもなくー、馬場町ー……馬場町ー…』
いつのまにか仕事に戻っていた車掌の声が電車内に響いた。
「にゃ」(ここだ)
紗希のアパートがある駅だ。
オレはひらりと床に飛び降りた。
「猫、降りるのか?」
「またね、猫ちゃん」
「猫、お前も頑張れよ」
「が、頑張って……猫」
ゴゴゴっとうなった扉が開く。
「にゃにゃにゃ!」
(またな!)
ひらりとホームへ飛び移る。
ホームのコンクリートは、少し冷たい。
動き出した列車の窓を見上げると、
赤ん坊を抱いた母親、丸刈りの中学生ども、オヤジ二人、眼鏡の女……、皆がオレに手を振っていた。
「にゃ!」
肉球を向け、それに応える。
ガタン……ゴトン……
オヤジのハゲに反射した光を残して、電車はゆっくりと次の目的地へ走り去っていった。