猫になって君にキスをして
商店街を抜けると、田んぼ沿いのあぜ道に掘っ立て小屋が建っている。
馬場町集会所だ。
そこから、大音量のカラオケ音が漏れていた。
『爺さまが叩くじょんから節の~~』
「……にゃ」
この町の住人は、よほど太川たかしが好きなのだな。
閉まりきっていないドアから中を覗き込むと、床に座る爺さん数人と婆さん数人の姿が見えた。
一人の爺さんが、マイク片手に『大望郷じょんから』を熱唱している。
その手が小刻みに震えているものだから、歌声までも不安定に揺れ動く。
まるでレコードのようだ。