猫になって君にキスをして

爺さん婆さん連中に混じり、散らばるカラオケテープを片付けている若い女の後ろ姿が見える。


「にゃ?」(あれ?)


見覚えのある背中。

見覚えのある髪型。

もしや。


「さ、夕ご飯の時間になるから帰ろうね!」


爺さん婆さんに振り返り、帰りを促す声の主はやっぱり紗希だった。


「にゃにゃ」(紗希)


何をしてるのだ、お前はここで。


「紗希ちゃんよ、あと一曲歌って帰ろうや」


吹っ飛んだ入れ歯を何食わぬ顔で別の爺さんの頭から取り上げ、そのまま口の中にカポリと収めた爺さんが紗希に催促した。


「んだ、もう一曲歌おうや」

「しょうがないなぁ。何にする?」

「太川たかしの『西酒場』がいいな」

「んだな、それだな」

「歌うべ」


ホントにこの町の住人は、太川たかし好きだ。

< 169 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop