猫になって君にキスをして
爺さん婆さん連中に混じり、散らばるカラオケテープを片付けている若い女の後ろ姿が見える。
「にゃ?」(あれ?)
見覚えのある背中。
見覚えのある髪型。
もしや。
「さ、夕ご飯の時間になるから帰ろうね!」
爺さん婆さんに振り返り、帰りを促す声の主はやっぱり紗希だった。
「にゃにゃ」(紗希)
何をしてるのだ、お前はここで。
「紗希ちゃんよ、あと一曲歌って帰ろうや」
吹っ飛んだ入れ歯を何食わぬ顔で別の爺さんの頭から取り上げ、そのまま口の中にカポリと収めた爺さんが紗希に催促した。
「んだ、もう一曲歌おうや」
「しょうがないなぁ。何にする?」
「太川たかしの『西酒場』がいいな」
「んだな、それだな」
「歌うべ」
ホントにこの町の住人は、太川たかし好きだ。