猫になって君にキスをして
後ろを振り向き、慎重に車道へ出ては水たまりを避ける。
しかしそれも、数分後には全く意味をなくしていた。
突然、後ろから走ってきた白いミニバン。
勢いよく走り抜けて行ったそいつの後に、全身びっしょりに濡れたオレがいた。
「にゃっにゃーー!」
(ちくしょー!)
もうどうでもいい。
水たまりに足を突っこみながら、ひたすら前へと進んだ。
……つもりだった。
しかしそこは猫の足だ。
思っている以上に距離は稼げていなかった。
後ろを振り向くと、まだアパートの屋根が間近に見える。
「にゃあ……」
(ふう……)
肩を落とし、ため息をつく猫が水たまりに映っている。
……猫だ。
オレは猫なんだ。