猫になって君にキスをして
「にゃ?」
薄暗くなったにもかかわらず、オレの視界はクリアだった。
むしろ、昼間よりもはっきり見える。
なるほど。
オレは猫だ。
たしかに猫だ。
数歩前を行く紗希の後姿もよく見える。
時折、ジーンズのポケットに手を入れて、ボリボリとケツを掻いている。
「にゃ…」(掻きながら歩くなって)
「何だかイライラしてきた」
「にゃ?」
「カルシウム不足のような気がする」
「にゃ?」(カルシウム?)
舗装道路に入って20m付近、この辺りで唯一のコンビニに紗希は入った。
オレは自動ドアの横で座り込み、紗希が出てくるのを待った。
スイーッチョン、スイーッチョン……。
近くの草むらの中で、虫が鳴いている。
と思ったら、突然目の前にぴょんと現われた何だか分からない虫が、オレの背中に飛び乗ってきた。
「んにゃっ!!」
オレは虫嫌いだ。
仰天したオレは、自動ドアの前でひとしきり転げまわった。