猫になって君にキスをして
「ア、ガットー、ゴザイター」
開いたドアから、ナニ語だか分からない声が聞こえた。
転げながら中を見たら、やはりナニ人だかわからない店員が紗希の後ろ姿を見送っている。
この町を選び、このコンビニに就職したわけを知りたい。
なんて冷静に考えている場合じゃない。
「あら、猫ちゃん、どうしたの?」
転がるオレの頭の上で、紗希の声がした。
「にゃ」(あ)
「お腹でも痛いの?」
「にゃ…」(紗希…)
……何だろう。
紗希の顔を改めて目の前で見たオレは、その場から逃げ出したい気分になった。
「にゃ…」
しゃがみこんだ紗希の顔が、オレの目線の少し上にある。
じっとうずくまったまま、紗希を見あげた。
オレのカラダから離れた虫が、紗希のサンダルの横をぴょんと逃げていった。