猫になって君にキスをして
「ア、ガトー、ゴザイター」
白い歯を光らせ、ナニ人……、いや、立派な日本人は中へ引っ込んだ。
「佐藤君、いっつもおつり忘れるんだもんなぁ」
……いっつももらい忘れてるお前もなかなかのもんだぞ。
「猫ちゃん、あんたこの辺では見ない子ね。しっぽの先が黒い子は初めてだわ」
「にゃ」
「パトロール中?」
「にゃ…」(追跡中…)
「帰るとこあるの?」
「にゃにゃ」と首を振り、うつむいた。
頭を撫でる紗希の手のひらは、やっぱり温かい。
「ケガしてるみたいだし、うちに来る?」
口の周りを白く染めたまま、紗希が微笑んでいる。
「ま、どっちでもいいわ。来たけりゃついてきて」
そう言うと、紗希は片手で牛乳パックをグシャリと揉み潰し、ゴミ箱へ投げ入れた。