猫になって君にキスをして
「あら? 猫ちゃん、ついてきてたの?」
2階の踊り場からオレを見下ろして、紗希は目を丸くした。
「にゃにゃ…」
(好きにしろって言ったのはお前だろ)
「ここまで来たなら、少し上がっていく?」
まるで人間に上がれと促すような口ぶりだ。
「にゃ…」
もう夜だ。
猫の足で、自分のアパートに戻ることを考えると気が遠くなる。
っていうか、オレはもともと紗希に会いにきたんだ。
このまま帰ってしまったんでは、意味がない。
でも……オレは猫だ。
紗希の部屋に上がったところで、いったい、何ができると言うのだろう。