猫になって君にキスをして
“ふっ”と、猫のくせにやるせない息を吐いた時、何かが前足の上でモゾモゾと動いた。
「にゃ?」
驚いた。
さっきと同じ、何だか分からない黒い虫が、右前足に乗っかっていたのだ。
波のようにうねる膨大な数の足を器用に使い、オレの足を登ろうとしている。
「んにゃーーーっ!」
もう一度言うが、オレは虫嫌いだ。
「んぎゃぎゃぎゃー!!」
奇声を発したオレは、階段を一気に駆け上がった。
そして、紗希よりも先に、玄関へ上がり込んだ。
入り口のマットに足をかけると、水上スキーの如くマットと共に数メートル滑り、冷蔵庫前まで運ばれた。
勢いがついていたので、マットが止まると同時に、オレの身体はゴロンと一回転。
寝転がりながら目をやった先に、唖然とした紗希の顔があった。