猫になって君にキスをして
「ほら、見てみろって。あの猫、しっぽの先が黒かったろ?」
ケツを紗希に突き出して、黒い青アザを見せた。
「汚いなぁ……。まあ、黒かったけど」
「だろ? 猫だったんだって、オレ」
紗希の顔は困惑していた。
眉間に深い皺が走っている。
「……あのさ、聡史、」
「猫だったんだ、オレ。大変だったんだぞ。猫の身体ってな、」
オレは紗希を抱いたまま、猫であった一日の行動・出会い・大冒険談なんかを語り始めた。
2~3分話しただろうか。
紗希の眉間の皺は、ますます深くなっていた。
「それでさ、その爺さんがさ、」
「聡史……」
「耳が遠くて話が通じないしよ、」
「聡史……」
「山根さんちのハスキー犬なんて、すんごい吠えて、」
「聡史!」
大声を上げた紗希に、ほっぺたの肉を両側からむんずと摘まれた。
「はにゃっ」
「あんた、やっぱり可笑しいよ。熱あるんじゃない?」
「はにゃ、ほにゃ」
「病院行く?」
「だひゃら。ほれふぁ、にぇこになったから……」
オレは顔をブンっとふって、紗希の手を振り払った。