猫になって君にキスをして
「しふぁしまぁ、珍ふぃ猫だ。しっぽの先だけ黒ふぃんじゃな」
しっぽの先だけが黒いなんて珍しいと言ってるのか?
そうだよな? そうしとこう。
爺さんはそう言うと目を閉じ、そのまま寝息を立ててしまった。
「にゃ」
おい爺さん、風邪ひくぞ。
寝床から起きてここに来たのにまた寝たら意味ねーだろ。
オレは爺さんの側にぴたりと移動した。
猫の体温は高いからな。
こうしてれば少しは違うだろ。
(猫になると優しくなれるのか?)
乾いた風が髭を撫でた。
ゆっくり目を閉じる。
(優しく……か)
両手を揃えながらオレは、昨日の紗希の尖った唇を思い出していた。