猫になって君にキスをして

「あんたの頭の中はそれしかないわけ? 水族館は? 約束は?」

「あのなぁ……」


無性に腹が立ったオレはむくっと起き上がった。

ほとんど無意識のうちにだったのだが。


「ひとりで行ってこい!」

「は?」

「水族館なんてひとりで行けるだろ!」

「はあ?」

「オレは寝る!」


再び布団に丸まろうとしてはっとした。

紗希の目から、大粒の涙がボロボロこぼれている。


「あ」

「バカ! 聡史のバカ!」

「……」

「バカバカバカバカバ!」

「……カバ」


……オレはバカなのかカバなのか。


いや、そうじゃ無い。

紗希が真っ赤になって泣いている。


少しあせった。

一応オレも男だ。

女の涙には弱い。


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