猫になって君にキスをして
……そうだ。紗希だ。
オレが風邪をこじらせて寝込んだとき、一日中そばにいてくれたことがある。
いや、
オレがそうやって寝込んだときにはいつもそばにいてくれた。
うつ伏せで寝るクセのあるオレの背中を撫でながら。
少しヒステリーなあの紗希が。
今、背中を撫でている手は皺だらけの爺さんの手だ。
紗希の手の感触とはまるで違う。
でも心地いい。
とても優しい。
人の手のひらはいつだって温かい。
何かを撫でる時、人の心の中にはいつだってあったかい何かがあるもんで。
その気持ちがなけりゃ、撫でるなんて行為はしないもんだ。
そこには愛が含まれている。
表情を見れば分かる。
いくらオレがカバだって、いやバカだって、そのくらい分かる。