猫になって君にキスをして

……そうだ。紗希だ。


オレが風邪をこじらせて寝込んだとき、一日中そばにいてくれたことがある。

いや、

オレがそうやって寝込んだときにはいつもそばにいてくれた。


うつ伏せで寝るクセのあるオレの背中を撫でながら。

少しヒステリーなあの紗希が。


今、背中を撫でている手は皺だらけの爺さんの手だ。

紗希の手の感触とはまるで違う。


でも心地いい。

とても優しい。

人の手のひらはいつだって温かい。


何かを撫でる時、人の心の中にはいつだってあったかい何かがあるもんで。

その気持ちがなけりゃ、撫でるなんて行為はしないもんだ。


そこには愛が含まれている。

表情を見れば分かる。


いくらオレがカバだって、いやバカだって、そのくらい分かる。

< 42 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop