猫になって君にキスをして

けどまあ、そういう店は他にもあるだろう。


躊躇した一番の理由は看板だ。


「安藤時計店」の文字がシャッターの上に並ぶのだが、

「藤」と「時」の色はすっかりハゲている。


「安」の字など、ウカンムリがハゲている。


近くで見れば何となく読めるが、遠目に見れば「女計店」。


怪し過ぎだろ。

もはや時計店を名乗れるネーミングじゃ無い。


しかしこの店で唯一正確な時間を指している時計があったのを覚えている。

レジ横にある電波時計だ。


おそらく、オレみたいに電池交換に来た客のために用意してるんだろう。


さすがに狂ったままの時計を「はいよ」と戻すわけにもいかねーしな。


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