猫になって君にキスをして
失敗した。
側溝はぶっ倒れそうな臭さだ。
急いで八百屋の脇から飛び出した。
八百屋の店先では、腰の曲がった婆さんが大根片手にジャガイモを眺めていた。
大根片手というか……
大根を杖代わりに使っている感じだ。
その重みのせいか、大根には微妙に亀裂が走っていた。
「婆ちゃん、今日は煮物でも作るんか?」
プロレスラー体型の店主が、タオルハチマキになぜか女物のエプロン姿で店の奥から出てきた。
その手にも大根が握られている。
「ああ。孫が好きなさかい」
「そうかい、そうかい」
「早く帰って仕込まんとな。よぉく煮込んだのがうめぇんだ」
「そうかい、そうかい」
「この大根とそのジャガイモ包んでくれると?」
この婆さんは一体どこ出身なんだ。