猫になって君にキスをして

失敗した。

側溝はぶっ倒れそうな臭さだ。


急いで八百屋の脇から飛び出した。

八百屋の店先では、腰の曲がった婆さんが大根片手にジャガイモを眺めていた。


大根片手というか……

大根を杖代わりに使っている感じだ。

その重みのせいか、大根には微妙に亀裂が走っていた。


「婆ちゃん、今日は煮物でも作るんか?」


プロレスラー体型の店主が、タオルハチマキになぜか女物のエプロン姿で店の奥から出てきた。

その手にも大根が握られている。


「ああ。孫が好きなさかい」

「そうかい、そうかい」

「早く帰って仕込まんとな。よぉく煮込んだのがうめぇんだ」

「そうかい、そうかい」

「この大根とそのジャガイモ包んでくれると?」


この婆さんは一体どこ出身なんだ。


< 65 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop