猫になって君にキスをして
煮物か。
そういえば紗希の煮物は美味かったな。
カップラーメンさえ上手く作れないくせに、なぜか煮物作りだけは上手いんだよな。
紗希の煮物……食いてぇな。
「にゃにゃにゃ」
(婆さんのよりも紗希のほうが美味いかもしんねーぞ)
「そうかい、そうかい」
ニッタリ笑った婆さんは、「じゃ、またな」と言い残してゆっくりと歩きだした。
金歯の輝きと共に。
「まいどあり!」
店主が亀裂の走った大根を振り回して見送る。
今夜は大根の煮付けでも作るかな……なんて言いながら。
オレはズルズルとビニール袋を引きずって歩く婆さんのケツを見送りながら「ふー」と気持ちいいため息をついた。