猫になって君にキスをして
「行くぞ。始まっちまうだろ、映画」
「うん。あ、待って。トイレ行ってくる」
「置いてくぞ」
「えー、待ってー」
そんな会話をしながら歩いていく2人の様子を見ながらオレは、
「にゃあ……(ふう……)」
深いため息をついた。
無性に紗希に会いたくなった。
映画なんて、ずっと連れてってなかったな、そういえば。
水族館に行くって約束だって……忘れてたくらいだ。
ゲーセンにだって、しばらく来てない。
てか、こういうゲームをやらせると、アイツはオレより上手いんだ。
足も遠のくって話だ。
いや、そうじゃなくて。
彼女より布団のほうが好きかもしれないなんて言っている人間は、
猫になったって文句言えねぇな。
「にゃ……」
紗希。
猫語で通じるかどうかわかんねぇけど、
謝りに行くから……待っててくれよ。
「ドンドンドン! ドドドドッドン!!!」
「……にゃ(頑張れよ)」
来た時よりもさらに激しい動きで太鼓を叩くオトコの後ろを通り過ぎ、
オレは再び赤レンガの道に戻った。