猫になって君にキスをして

最近会っていなかったが、真治というのはオレの友達だ。

なかなかの天然男だ。


「うわーん! あーん!」


カウンターに突っ伏して泣き始めた真治の横に、オレは座った。

回転椅子の表面が、猫のケツでも分かるほどベトベトしている。

はっきり言って、汚ねぇ。


「にゃあ……」


まあ、いいだろう。

肉球が汚れたついでだと思えば。


店主はタバコを吸いながら、ビール片手にメロドラマに集中していた。

そのテレビ画面も、油でベタベタだ。

俳優陣の顔が、黄土色に見える。

年期の入った汚れ加減だ。


猫のオレがカウンター席についているのに、

店主はまったく気にも留めていない。

注文も聞いてこねぇ。

当たり前か。


突っ伏した真治の左手には、中ジョッキが握られている。


「にゃっ!」(ラッキー)


オレはジョッキに前足をかけ、顔を半分突っこんでビールをすすった。

正確には舐めた。


「にゃはー」(うめー)


ビールは猫の口にも合う。

すげー美味い。

喉が渇いていたので尚更だ。


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